名古屋高等裁判所 平成4年(ネ)651号 判決 1993年9月30日
控訴人
大山香織
右法定代理人親権者母
大山幸子
右訴訟代理人弁護士
藤村義徳
同
三宅裕
同
吉木徹
被控訴人
加藤武司
右訴訟代理人弁護士
小川剛
同
村橋泰志
同
木村良夫
主文
原判決をつぎのとおり変更する。
被控訴人は控訴人に対し金八二四万八四二二円及びこれに対する昭和六一年一月一日より支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じて五分し、その三を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。
この判決は、控訴人勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
控訴代理人は「原判決を次のとおり変更する。被控訴人は控訴人に対し金二〇〇〇万円及びこれに対する昭和六一年一月一日より支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決、並びに仮執行の宣言を求め、
被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次に付加する外、原判決の事実摘示(原判決二枚目表六行目から同三枚目裏八行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。
(控訴代理人の陳述)
一 控訴人がタクシーや祖母の運転する自動車で通院したのは、できるだけ通院時間を短縮して、早く学校に登校して授業を受けたいと考えたからで、不便な路線バスを利用していたのでは支障をきたすという、合理的な理由に基づいていた。
二 控訴人は、将来保母ないし幼稚園教諭になることを希望して、平成五年四月岡崎女子短期大学に進学した。しかし、控訴人には、左眼瞼辺りに顕著な肥厚性瘢痕が認められるから、卒業後就職または転職するに際して、右後遺障害が不利な条件となることが明らかであって、減収の可能性が認められる以上、逸失利益の喪失を認めるべきである。
(被控訴代理人の陳述)
右主張はいずれも争う。
(証拠関係)<省略>
理由
一当裁判所は、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、本判決第二項掲記の限度で、正当としてこれを認容すべきであり、その余を失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次に訂正・付加する外、原判決の理由説示(原判決二枚目表九行目から同三枚目裏五行目まで、及び同九行目から同八枚目表四行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。
1 原判決三枚目裏末行の「証拠」から同四枚目表一行目の「原告本人」までを「<書証番号略>、原審並びに当審における控訴人本人尋問の結果」に改め、同裏二行目と三行目の間に、行を変えて次のとおり加える。
「3 現在、控訴人の視力は、裸眼が右0.1、左0.07、矯正して右0.3、左0.9であるところ、右眼は本件事故が影響しているが、左眼はむしろ近視によるものである。」
2 原判決四枚目裏五行目の「証拠」から同じ行の「弁論の全趣旨」までを「<書証番号略>、及び原審における控訴人本人尋問の結果」に、同五枚目表四行目の「証拠(原告本人)」を「原審における控訴人本人尋問の結果」にそれぞれ改める。
3 原判決五枚目表末行の「二万七九〇〇円」を「七万四九〇〇円」に改め、同裏一行目から同八行目までを、次のとおり改める。
「<書証番号略>、及び原審における控訴人本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨によると、控訴人は、祖母の付添いの下、前記加茂病院に通院するに際し、路線バスを利用していたのでは、運行回数が少ないうえ、所用時間が長くなるので、病院の診察時間の関係や授業への支障をできるだけ少なくするため、本件事故により使用不能となった自動車を買い替えるまでの間、一日金三二五〇円を要するタクシーで二〇日間通院し、その後は祖母の運転する新しい自動車で通院したこと、なお、バス料金は、片道人大人金三〇〇円、小人金一五〇円であったことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
右認定事実によると、二〇日間タクシーで通院したことはやむを得なかったというべきであるが、祖母の自動車による一一日間の通院は、前示のとおり、通院付添費を認めていることも考慮すると、バス料金相当額をもって通院交通費とすべきである。
そうすると、二〇日間のタクシー料金合計金六万五〇〇〇円に一一日間のバス料金相当額合計金九九〇〇円を加えた金七万四九〇〇円をもって、本件事故と相当因果関係にある通院交通費とすべきである。
4 原判決五枚目裏一〇行目の「これを」から同一〇行目、末行の「認められたとしても」を「<書証番号略>によると、医師等への謝礼として金三万六〇〇〇円が支出されたことが認められるが、未だ」に、同六枚目表四行目の「証拠(<書証番号略>)」を「<書証番号略>」にそれぞれ改め、同六行目の「照らすと」の次に「、<書証番号略>を考慮しても、なお」を加える。
5 原判決六枚目裏八行目の「五一二万五二五七円」を「六九〇万〇七二二円」に改め、同九行目から同七枚目表三行目までを、次のとおり改める。
「原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は高等学校在学中から将来保母になることを希望し、平成五年四月岡崎女子短期大学幼児教育科に入学したが、友人から左眼瞼の腫れを指摘された外は、自己の抱いている漠然とした不安を除けば、進学に当たっても、将来の就職に対しても、別段不利益となるような経験をしていないことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
ところで、顔面醜状については、それ自体身体の労働機能に影響を及ぼすものではないから、一般的には労働能力の喪失をきたすものではないといいうるが、とりわけそれが女子の場合には、当該醜状の程度、年齢、希望する職業との賃金格差、事故前後における稼働状況の差異等により、場合によっては顔面醜状それ自体による逸失利益が認められる場合が想定されないではない。しかしながら、本件の場合は、控訴人の希望する職業、不利益の現実化の程度等からすると、未だ逸失利益を認める案件ではないというべきであって、その蒙る不利益は、前示のとおり、慰謝料によって補完すべきものである。」
6 原判決七枚目表五行目の「一八歳から六七歳」を「前記短大卒業後、二〇歳から六七歳」に、同七行目の「平成三年版」から同九行目の「一八二万九九〇〇円」までを「平成三年賃金センサス全国産業計、企業規模計、高専・短大卒二〇歳ないし二四歳の女子労働者平均給与の年額二六四万二九〇〇円」にそれぞれ改め、同末行を、次のとおり改める。
「2,642,900×0.14×(26.5952−7.9449)
≒6,900,722」
7 原判決七枚目裏一行目の「六〇万円」を「七五万円」に、同五行目の「一七八一万五九五七」を「一九七八万八四二二円」にそれぞれ改め、同七行目から同九行目までを削り、同八枚目表二、三行目の「六二七万五九五七円」を「八二四万八四二二円」に改める。
二したがって、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、本件事故による損害賠償として金八二四万八四二二円及びこれに対する本件事故の日である昭和六一年一月一日より支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却すべきである。
よって、一部これと異なる原判決を右の趣旨に変更し、訴訟費用の負担について民訴法九六条前段、九二条本文、八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 土田勇 裁判官 喜多村治雄 裁判官 林道春)